序―2018年
テングサの流通は生産者が採取し、漁業組合に集荷され、県漁連、全国漁連が入札会を開催し、テングサ問屋が入札参加して取引されている。入札会の期間は通常4月(前年分がある場合は2月のときもある。)から10月頃までである。開催地域は東京都、静岡県、始め紀伊半島、四国、九州と各地に広がる。
2018年のテングサ入札会は静岡県第1回2月22日から始まった。続いて静岡県第2回が4月12日にあり伊豆仁科漁協産が中心として主に昨年採取したものが出品された。
他の地域は4月以降の口開けのため、大分県蒲江産で4月25日4.9トン、1kg当り1401円が最初となった。(以後価格は1kg当りを表示する。)昨年は5月12日4.8トン1120円と価格は125%となった。
それというのも静岡県の1回2回の合計出品数量が16.5トンであり昨年の同時期29.7トンに対して数量が55.6%と少なく価格が115.6%となっていたことに加え、各地不作の情報が流れていたためである。
6月に入り各地本格化し、6月12日徳島県入札会では16トン(昨年18.2トン)代表的な産地、浅川産は1671円(昨年1538円)価格108.6%となった。
次いで6月14日静岡県第3回は4.9トン(昨年同期8.6トン)、仁科浜産3等品の銘柄に限っていえば1570円(昨年同期1080円)と価格は145%となった。
一方、東京都に関していえば昨年11.9トンのところ今年は14.2トンの出品があり価格は昨年並みで落ち着いた。
7月に入り大口の愛媛県入札会は92トンと昨年の102トンから減産、代表産地の日振島産は1640円と昨年の1310円から価格125.1%となった。
以後8月31現在、各地減産傾向が続き今年の最終入札数量は300トンと昨年の338トンと比較して88.7%の数量になる模様である。入札外の相対取引数量を含めても2018年最終生産数量は410トンに留まりそうな気配である。昨年は総計で471トンであったので87.0%の減産になる見通しである。
昨年2017年も対前年数量比83.6%価格比130%となり2017年9月6日付、日本食料新聞に「天草の高値続く」の記事が出ている。
今年の価格は高くなった昨年からさらに平均120%から130%に上昇する見通しである。
ここで今年の状況を過去30年間(1988〜2017)の動きと照らしてみる。
@ 県別生産量
1988年の2327トンから逐次減少している。
特に東京都伊豆七島、伊豆半島地域の1988年ごろの600トンから30年経った2017年では150トン程度と大きく減産している。
また、徳島、愛媛、高知の四国地域も1988年ごろの600トンから2017年に170トン程度に落ちている。
東京都と徳島県での凋落が際立っている。近年は静岡県愛媛県が100トン強になっている。
2000年は東京都三宅島の噴火で前年178トンから95トンに、また、2003年は全国的に長梅雨、特に東日本では8月に入っての梅雨明けで収穫量が537トンと落ち込んだ。
一方、2005年は6月12日放送のTV番組によって寒天ブームが起こり8月以降、価格が高騰、一例として個別銘柄ではあるが東京都波浮港産、天赤荒1等においては9月12日入札会では前年1111円が高値3100円まで上昇し279%となった。価格が増産要因になって843トンと前年605トンから大幅に増えた。
さらにブームは翌年まで期待され増産に輪がかかり2006年1002トンとなったが、以後価格の急落を受け、現在の500トン程度となっている。
参考までに寒天原藻(ヒラクサ、ドラクサを含む)として1966年東京都1021トン、静岡県1200トン、全国6336トンまた1967年東京都990トン、静岡県1200トン、全国6100トンであった。(昭和42年、年間の寒天概況;日本寒天工業組合編)
1966年はテングサの異常高値年であり増産に拍車がかかった年である。この時の高値原因は一部商社の買い占めに端を発したものである。
〈表1 県別生産量〉
〈図1〉
A 国別輸入量
先ず目立つのは2005年3753トン、2006年4192トンである。2005年の年後半からの国内テングサの異常高から輸入が急激に増え、翌年が最高値になったことがわかる。
現在モロッコが一番の輸入国で、年間600トンから1000トン、二番目は韓国500トン、他チリ、南アフリカ、インドネシアなど加え合計2000トン前後になっている。
モロッコは世界最大のテングサ生産国であり日本にとっても最重要な輸入先である。
韓国は当初、テングサ原藻の輸出が禁止されていた。統計でみると1990年に0.3トン輸出、以後1995年に14トン輸出されたものの、本格的には1998年762トンからである。1990年は0.3トンの為、表2では0と表記されている。
韓国とりわけ済州島産は国内テングサと品質が良く似ていることから以後今日まで国内産を補う役割をはたしている。ただ、2017年に国内テングサ相場に応じて価格が急騰、(2016年764円→2017年1130円となり)147.9%に上昇した。
一方北朝鮮からの過去200トンから300トン輸入されていたのが、2007年より政治情勢により途絶えている。
〈表2 主要国国別輸入数量(1988〜2017)〉
〈図2〉
B 国産と輸入の合計数量
1988年から5年間の平均で国産は1960トンであったのが2013年から5年間の年平均518トンになっている。また、輸入品は1988年から5年間の年平均2023トンが2013年からの5年間年平均 1803トンで推移、国産と輸入の合計では1988年から5年間の年平均3983トンから最近年次5年間は2321トンとなっている。
ここ30年のうちに国内流通のテングサは約1600トン減で動いていることになる。それに対して国内の需要はそれほど減少していないので減少分は製品となった輸入寒天が補っていると理解できる。
現実として輸入寒天数量は1988年から1992年5年間平均数量764トン、2013年から2017年の5年間平均数量1855トンとなっている。(伊豆の天草漁業編纂会編 伊豆の天草漁業(1988)p183 成山堂書店)
〈表3 国産テングサと輸入テングサの合計数量 (1988〜2017)〉
〈図3〉
C 価格の推移、国内テングサと輸入テングサ
国産テングサ価格は波浮港天赤荒1等で1988年から1992年までの5年間、年平均価格1320円が2018年は2546円で192%、愛媛県日振島で1988年から1992までの5年間、年平均価格796.8円が2018年1640円205%になっている。
輸入テングサは韓国で1998年から2002年までの5年間、年平均価格440円→2017年1130円256%となり、モロッコでは1988年から1992年までの5年間、年平均価格273.2円→2017年625円228%に上昇している。
2017年から始まった価格高騰は過去2005年、2006年の寒天ブームの価格を上回り2018年は引き続き高値を更新している。
〈表4 価格、国内テングサと輸入テングサ(1988〜2017) 1kgあたり価格・円〉
注1;国産価格として東京都波浮港天赤荒1等と日振島採草を採用した。
注2;該当年の7月入札会の落札価格を基準としているが該当するものが無い場合はその時の想定される価格をとっている。7月は年間でいちばん入札出品数量が多い時であり、その年の価格を代表していると思われるためである。
注3;輸入テングサ単価はCIF(運賃保険料込み)。
〈図4-1〉
〈図4-2 国産価格5年移動平均〉
まとめ―国内テングサについて
テングサの供給量を左右する要因をあげれば、@生育量、A採取者、B採取時の気象にかかわっていると考えられる。
海外からの輸入は国産の生産量の補填で増減している傾向にある。
@一番の要因は生育量の減少にある。伊豆八丈島で1966年154トン1988年141トンあったものが近年2004年以降皆無と言っていいくらいである。(1966年1988年東京都入札出品量;(株)森田商店調べ)
他でも同様に全く生育していない地域が散見される。
まさしく今回のシンポジウムのテーマであり原因の究明と対策が求められる。
短期的には黒潮の蛇行による水温の変化等があげられる。
A採取者要因としては就業者の減少と採取意欲の減退があげられる。就業者の減少は避けられない傾向であるが、その中でも採取者の減少と採取意欲の減退はテングサ漁における収入が大きく影響している。
生産量は過去1988年2300トン内外から2003年までの537トンと減少しているが、その間価格は変化していない。(図4-2 国産価格5年移動平均。)
2005年から2006年にかけて寒天ブームで価格が高騰したときには生産量は増加している。(表1県別生産量。)
価格が上れば採取意欲は向上し生産量は増加する。採取意欲の向上の根本は収入が増えることにある。
つまり、収入=価格×採取量 である。
テングサ採取業者はテングサのみならず他の漁、例えば貝類等磯ものとの収入を比較していて、テングサ以外を選んでいると思われる。価格を高く見直すことは必要ではあるが極度の価格上昇は一時的な生産量増加になるが、継続性は無い。
不漁、そしてそれに伴う価格の高騰は輸入品の増加を招くことになる。
最終的には@に行き着く。
B採取時の気象条件は制御できない。
特殊な例だが、2018年長崎県の場合、入札出品量が1.3トンと極端に少なかったが、漁連担当者の話ではテングサ漁は1日のみの操業であったと説明された。少なくとも操業日数を増やすように収入面を見て指導することも一案と思われる。
以上、30年の動きをみてきたが、不漁原因からくる2018年の高値が今後も続くとすると国内産テングサの需要の減退を招くことは必須である。
国内産テングサの増産が図られることが求められる。
参考文献
(株)森田商店 全国天草入札結果表;昭和63年(1988年)〜平成30年(2018年)
日本寒天工業組合編 昭和42年、年間の寒天概況
財務省貿易統計
伊豆の天草漁業編纂会編 伊豆の天草漁業(1998)p183 成山堂書店
昭和41年(1966年)、昭和63年(1988年)東京都入札会結果表
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