05 2025/03/16 太平洋沿岸域のテングサ生産量の変動について
《要約》
テングサは寒天やトコロテンの原料となる重要な水産資源である。生育域は南北半球の温帯〜亜熱帯であり全国的に生育しているが(※1)、国内水産資源としてのテングサは千葉県から長崎県にかけての、いわゆる太平洋ベルト地帯で多く採取されている。採取されたテングサは各地域の漁連・漁協が主となって入札会が開催され、落札されていく。
近年、テングサの生産量は減産し続けており、入札会出品量と入札外数量を合計した全国生産量も2024年は推定190トン(表1)と、過去7年(2017年〜)で最低となった。減産の原因は様々な要因があるが、2017年8月からの黒潮大蛇行(※2, ※3)が大きな影響を与えているといわれている。
本稿では太平洋沿岸域の国産テングサに焦点を絞り、海域毎に生産量変動を解析し、黒潮潮流との関連性を考察した。海域はこれまでの生産量変動から「T:西日本(紀伊水道)」「U:西日本(瀬戸内海/大阪湾)」「V:西日本(豊後水道)」「W:東海」「X:東日本1」「Y:東日本2」の6種類に分類した(図1)。
解析の結果、各海域とも特徴的な変動をしており、特に「T:西日本(紀伊水道)」海域では、黒潮大蛇行が発生した翌年の2018年から大減産していた(図2)。この海域は黒潮大蛇行の南下開始海域付近(潮岬;※2,※3)であることから、黒潮大蛇行の影響を強く受けた可能性がある。
一方、「X:東日本1」海域と「Y:東日本2」海域では黒潮大蛇行発生後も暫く減産しなかった(図10,図12)。この海域は黒潮大蛇行の南下開始海域(潮岬)から距離がある為、黒潮大蛇行の影響を強く受けず、別の潮流の影響を受けていた可能性がある。実際、黒潮は2017年の黒潮大蛇行以外に、2023年に北日本で黒潮続流の極端な北上が報告されており(※5)、「X:東日本1」海域と「Y:東日本2」海域では既に潮流が変化していた可能性も考えられる。
テングサ生産量と黒潮の関連性を立証するには更なる研究が必要となる。本稿を読まれた方が海洋環境と生産量の関係に興味を持ち、水産資源保護・増産の一環として今後の研究課題として頂ければ幸いである。
(報告/社長 森田尚宏)
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