01 2020/12/28 伊豆白浜海水温とテングサ出品量(伊豆半島/伊豆大島)の関係
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【目的】
- テングサは1月〜3月にかけて胞子が岩礁に着床して生長する。しかし、この時期に海水温が高いと(13℃〜15℃以上)胞子が岩礁に着床できず、結果生物量が減少する。
- 一方、日本列島南岸には黒潮が流れており、2017年夏期より大蛇行を始めている。黒潮は暖かく栄養塩が少ない為、黒潮の流入はテングサの生育に影響を与えている可能性がある。この為、黒潮の大蛇行が近年のテングサ出品量が減少している原因の一つとして挙げられる。
- 各年の黒潮動向の数値化が困難であった為、本稿では黒潮の動向指標の一つとして東伊豆白浜地区の海水温を適用し、テングサ出品量との関係を解析した。ただし、東伊豆白浜地区の海水温が必ずしも黒潮動向を反映しているとは言えない。
- テングサの産地は西伊豆地域、東伊豆地域、伊豆大島北部(岡田地区)、伊豆大島南部(波浮地区)の4地域に分類し、各々白浜海水温との関係を解析した。また、上記の通り1月〜3月の海水温はテングサ胞子の岩場への着床に影響を与えるといわれている為、今回は各年の1月〜3月の平均海水温で検討した。
【結果】
- 伊豆白浜の平均海水温(1月〜3月)とテングサ(伊豆/伊豆大島)の入札会出品量の結果を下記グラフで記す。
- 西伊豆地域は他地域よりテングサ出品量が多い。グラフには比較が容易になるよう、西伊豆地域の出品量のみを1/5とした。
【解析1:2016年〜2017年(黒潮大蛇行前)】
- 伊豆白浜地区の平均海水温(1月〜3月)は2018年にかけて下降している。海水温下降の原因は不確定であるが、伊豆白浜地区(東伊豆地域)に暖かい黒潮の流入が減少した可能性もある。
- 東伊豆地域のテングサ出品量は減少している為、テングサ胞子があまり岩礁に着床できなかった可能性がある。しかし、伊豆白浜地区(東伊豆地域)の海水温が下降している為、東伊豆地域のテングサ胞子は岩礁に着床しやすい状況である。出品量の減少は海水温とは別の要因がある可能性がある。
- 西伊豆地域のテングサ出品量は激減している為、テングサ胞子があまり岩礁に着床できなかった可能性がある。西伊豆地域の海水温データがない為、実際の海水状況は不明であるが、常時黒潮が流入してればテングサの胞子は岩礁に着床できず、生物量は減少していくと考えられる。
- 伊豆大島北部(岡田地区)のテングサ出品量は徐々に増加している為、テングサ胞子が岩礁に着床した可能性がある。伊豆大島北部の海水温データはない為、実際の海水状況は不明であるが、伊豆白浜地区(東伊豆地域)の海水温は下降している為、伊豆大島北部にも影響していた可能性がある。
- 伊豆大島南部(波浮地区)の出品量は徐々に増加している為、テングサ胞子が岩礁に着床した可能性がある。伊豆大島南部の海水温データはない為、実際の海水状況は不明であるが、伊豆白浜地区(東伊豆地域)の海水温は下降している為、伊豆大島南部にも影響していた可能性がある。
【解析2:2018年〜2020年(黒潮蛇行後)】
- 伊豆白浜地区の平均海水温(1月〜3月)は2018年から上昇に転じている。海水温上昇の原因は不確定であるが、伊豆白浜地区(東伊豆地域)に暖かい黒潮が流入し始めた可能性もある。
- 東伊豆地域のテングサ出品量は2019年までは減少している為、テングサ胞子があまり岩礁に着床できなかった可能性がある。伊豆白浜地区(東伊豆地域)の海水温は上昇している為、東伊豆地域のテングサ胞子は岩礁に着床し難くなり生物量が減少した可能性がある。2020年の増加はコロナウイルス感染拡大により、伊豆方面への観光者が減少、地元でのテングサ消費が伸びなかった為、入札会に出品されてきたと思われる。
- 西伊豆地域のテングサ出品量は引き続き激減している為、テングサ胞子があまり岩礁に着床できなかった可能性がある。西伊豆地域の海水温データがない為、実際の海水状況は不明であるが、常時黒潮が流入してればテングサの胞子は岩礁に着床できず、生物量は減少していくと考えられる。
- 伊豆大島北部(岡田地区)のテングサ出品量は2019年までは略変化がない。伊豆大島北部の海水温データはない為、実際の海水状況は不明であるが、伊豆白浜地区(東伊豆地域)の海水温は上昇している為、伊豆大島北部にも影響していた可能性がある。2020年の増加はコロナウイルス感染拡大により、東京方面へのエビカニ出荷量が減少した為、テングサ漁へ転向し増加したと考えられる。
- 伊豆大島南部(波浮地区)の出品量は増加している為、テングサ胞子が岩礁に着床したと考えられる。伊豆大島南部の海水温データはない為、実際の海水状況は不明であるが、伊豆白浜地区(東伊豆地域)の海水温は上昇している為、伊豆大島南部の海水温にも影響していた可能性がある。2020年の増加はコロナウイルス感染拡大により、東京方面へのエビカニ出荷量が減少した為、テングサ漁へ転向し増加したと考えられる。
- 今回は伊豆白浜地区の海水温と各地域のテングサ出品量を比較した。しかし地域毎で海水温とテングサ出品量を比較すればより傾向が把握できる。更に黒潮の動向(栄養塩等)が把握できれば、テングサ出品量の動向もより理解が深まるであろう。
(報告/常務 森田尚宏)
参考:静岡県水産・海洋技術研究所 伊豆分場(海水温データ)
(株)森田商店(テングサ出品量データ)
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