毎年3月から10月にわたって行われるてんぐさ入札会の報告です。
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00 2025/01/25 2024年(令和6年) テングサ概況(2024年1月〜2024年12月)
テングサは寒天やトコロテンの原料となる重要な水産資源である。生育域は南北半球の温帯〜亜熱帯であり全国的に生育しているが、国内水産資源としてのテングサは千葉県から長崎県にかけての、いわゆる太平洋ベルト地帯で多く採取されている。採取されたテングサは各地域の漁協が主となって入札会が開催され、落札されていく。
2024年の国内テングサ入札会は、3月14日の静岡県第1回入札会から始まり、11月21日の東京都第1回入札会をもって終了した。全国の主な入札会の合計出品量は99.3トン(表1)で、2023年の出品量と比較して80.7%と減産した(2023年全国入札量:123トン)。過去7年(2017年〜)で比較しても、2021年の129.5トンを下回り最低となった。
入札会出品量と入札外数量を合計した全国生産量も190トン(表1;推定)となり、2023年と比較して70.9%と減産した(2023年全国生産量:268トン)。過去7年(2017年〜)で比較しても最低である。全国的な減産によりテングサ価格が高騰したが、特に徳島県産テングサ/愛媛県産テングサ/千葉県産テングサの減産が、全国的なテングサ相場に大きな影響を与えた。
徳島県第1回入札会は、全漁連(※1)主催の入札会では年内最初の入札会であり、全国のテングサ相場を左右する重要な入札会である。本入札会の2024年生産量は3.8トン(※2)と2023年よりは増産はしたが、例年の生産量からすれば大減産している。続いて開催される愛媛県入札会の出品量もかなり減産していた為、本入札会(徳島県入札会第1回入札会)で先にテングサを確保しようとする動きが強まった。
愛媛県第1回入札会は全国のテングサ入札会の中でも生産量が多い入札会である。この入札会での確保の成否が各業者の年間在庫に大きく影響を与える。しかし、2024年出品量は2023年出品量と比較して64%(※3)と大減産した為、本入札会(愛媛県第1回入札会)でも購入競争が激化した。
千葉産テングサも全国的には生産量が多い地域であるが、2023年8月から収穫量が激減し続けている。その結果、2024年生産量は55トン前後と推定され、2023年と比較して55%程度(推定)の大減産であった。例年と比較しても36%程度(推定)となり大減産であった。
伊豆産テングサ(静岡県産テングサ/東京都伊豆諸島産テングサ)はブランド銘柄であり、特に伊豆諸島産テングサは他地域では殆ど出品されない太いテングサが多い(オオブサ;Gelidium pacificum)。この為、他産地では代替が難しく、2024年出品量も2023出品量と比較して22%と大減産した為、伊豆諸島産テングサは過去10年で最も高騰した。
全国的な減産の原因として、2017年8月から続く黒潮の大蛇行の影響が大きいと考えられる。ただ、生産量の経時的変化は地域毎に特徴があり、黒潮大蛇行の影響は全国一様でないと考えている。地域毎の生産量変化と黒潮大蛇行との考察は別途報告予定である。
テングサの生長には下記事項が必要と考えられており、各漁連・漁協は生育状況や海域等の研究を開始している。また、全漁連と大学で日本近海の環境調査を協同研究する予定との報告もある(※4)。これらの研究が即座に生産量の増加に繋がることは難しいが、情報の蓄積が未来に繋がっていくことを期待したい。
【テングサの生育条件】
@ 胞子着床時期(1月〜3月)に海水温が13℃(〜15℃)以下となること。
A 海水の栄養塩が豊富であること。
B テングサ生長期(4月〜6月)に海水温が上昇すること。
C テングサ採取時期(4月〜8月)に天候が良いこと。
【表1:全国の主な入札会出品量と全国生産量(1月1日〜12月31日)】
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《外国産テングサ(2024.1.1〜2024.12.31)》
2024年(1月〜12月)の総輸入量は1,497トンで(表2)、2023年の総輸入量と比較して略同量であった(2023年1,450トン;±5%以内の変化は略同じとして記載)。過去6年(2018年〜)で確認しても、輸入量は略平均な値であった。
韓国産テングサの2024年の輸入量は187トンであり、2023年の輸入量と比較して49%と減少した(2023年383トン)。2023年の輸入量増加は、急激な円安による輸入価格の高騰に加え、2024年の生産量が少ないという情報により、各業者が事前に輸入した為と考えられた。2024年の輸入量減少は、韓国産テングサの生産量自体が大減産した為であり、国内余剰の影響ではないと考えられる。輸入平均単価(※6)は、韓国産テングサの減産に加え、国産テングサの減少と高騰の影響を受け、前年比110%となった。過去6年(2018年〜)で確認すると、輸入量は過去3番目に少ない。2023年が過去6年(2018年〜)で最も多かったのと比較すると対照的である。
モロッコ産テングサの2024年の輸入量は991トンと、2023年の輸入量と比較して125%と増加した(2023年は790トン)。急激な円安による輸入価格は上昇したが(輸入平均単価は前年比106%)、それ以上に国産テングサや韓国産テングサの減産・高騰し、更に2023年輸入量の減少で国内在庫が少なくなった為、2024年の輸入量は増加したと考えられる。過去6年(2018年〜)で確認すると、輸入量は最も多い。
2024年全期を通しての為替動向は以前不透明であるが、2023年から2024年にかけての急激な円安状態が続いており、今後もテングサの輸入価格は高値維持となる懸念がある。特に韓国産テングサは、国産テングサと性状が似ている為、国産テングサが減少している中、需要の集中が予想される。人件費の上昇も重なり、更なる高値の懸念がある。
【表2:テングサ輸入量(1月〜12月)】
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財務省貿易統計より(単位:トン)
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※1:入札会出品量と入札会外数量(千葉県等)を合計した推定数量。
※2:徳島県入札会出品量(2024年)=第1回3.8トン+第2回1.8トン
※3:愛媛県入札会出品量(2024年)=第1回25.1トン+第2回6.5トン 愛媛県入札会出品量(2023年)=第1回39.0トン+第2回10.8トン
※4:日本経済新聞2025年1月21日
※5:入札会出品量と入札会外数量(千葉県等)を合計した推定数量。
※6:輸入平均単価:赤テングサ価格、水洗テングサ価格、晒テングサ価格を合計して算出。一般的に晒テングサは赤テングサより高い為、晒テングサの輸入量が増えると高値、赤テングサの輸入量が増えると安値となる。この為、必ずしも輸入平均単価が各テングサ価格を反映しているとはいえない。
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(報告/社長 森田尚宏)
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